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研究トピックス一覧

カビの寿命を決定づけるDNA変異を発見-生物に共通する老化と寿命の謎に迫る-(大学院理工学研究科 吉原亮平助教)

2025/1/16

プレスリリース全文はこちらからご覧ください。

研究のポイント

  • カビがどれくらいの期間にわたり成長を続けるのかは分かっておらず、老化プロセスや寿命については謎に包まれています。
  • ミトコンドリアの複製に不可欠なDNAポリメラーゼ遺伝子に生じた新たな変異が、カビの老化を促進させることを発見しました。
  • 本研究から得られた知見は、カビの成長抑制技術の開発や、ミトコンドリア病に関する病態理解の一助になることが期待されます。
新規短寿命変異株における老化促進による寿命短縮

概要

埼玉大学大学院理工学研究科?生体制御学プログラムの吉原亮平 助教と島倉柚貴 大学院生を中心とする研究グループは、アカパンカビの短寿命変異株の解析を実施し、カビの老化を促進させる新たな変異を発見しました。この短寿命変異株は、ミトコンドリアDNAの複製に関与するDNAポリメラーゼγに変異を持ち、これにより寿命の短縮や変異原に対する感受性の上昇が起こることが示されました。今回見つかった変異は、他の生物種も含めたDNAポリメラーゼγ遺伝子のこれまでに報告がない位置に存在しており、DNAポリメラーゼγの機能にとって重要な領域を新たに特定することができました。また、解析した変異株では、ミトコンドリアDNAの複製が均一に行われていないことが示され、この異常がミトコンドリア機能不全を引き起こし、寿命が短縮していることが示唆されました。
本成果は2024年11月29日に「Genetics」にオンラインで公開されました。

論文情報

掲載誌 Genetics
論文名 A mutation in DNA polymerase γ harbours a shortened lifespan and high sensitivity to mutagens in the filamentous fungus Neurospora crassa
著者名 Ryouhei Yoshihara, Yuzuki Shimakura, Satoshi Kitamura, Katsuya Satoh, Manami Sato, Taketo Aono, Yu Akiyama, Shin Hatakeyama, Shuuitsu Tanaka
DOI 10.1093/genetics/iyae201
URL https://doi.org/10.1093/genetics/iyae201

用語解説

?アカパンカビ
アカパンカビ(学名: Neurospora crassa)は、子嚢菌門に属する糸状菌の一種であり、古くから遺伝学のモデル生物として利用されてきました。培養や変異体を取得する手法など研究を行う上で重要な技術が確立されているだけでなく、多種多様な変異体をバイオリソースセンターから容易に入手できることから、実験生物として重要な位置づけにあります。

?ミトコンドリアDNA
ミトコンドリアは真核生物の細胞内に存在しており、酸素呼吸によるエネルギーの産生を行う細胞小器官です。ミトコンドリアは、ミトコンドリアDNAと呼ばれる独自のDNAを持っており、このDNAには酸素呼吸に必要な様々な遺伝子が存在しています。これらの遺伝子に異常が生じるとエネルギーの産生が正常に行うことができなくなります。

?ミトコンドリア病
ミトコンドリア病は、ミトコンドリア機能の異常が原因でおこる病気の総称です。ミトコンドリア病には、DNAポリメラーゼγの異常以外の要因によるものも多く報告されています。

研究成果をわかりやすくご紹介

どんな研究で、どんなことが可能になったのか(解明されたのか)

多くのカビは、菌糸を成長させ続けることで広がっていきますが、長期間にわたる菌糸成長を可能とするメカニズムの詳細は未だ明らかとなっていません。本研究は、カビのモデルであるアカパンカビの短寿命変異株の変異遺伝子を特定し、その遺伝子の機能を解析することで、カビの成長を維持するメカニズムの解明に繋げることを目的としています。
本研究では、新たに得られた短寿命変異株の解析を行うことで、カビの寿命を短縮するDNAポリメラーゼγ遺伝子の変異を発見しました。この変異により、ミトコンドリアの形態異常だけでなく、今回解析した変異株に特徴的な点としてミトコンドリアDNAの複製が均一に行われていないことが示されました。これらのことから、不完全なミトコンドリアDNA複製が、ミトコンドリア機能不全を引き起こすことで、老化が促進される寿命短縮過程の存在が示唆されました。

社会(研究分野)にどのような影響が期待されるか

DNAポリメラーゼγの異常は、人ではミトコンドリア病の原因となることが報告されており、重篤な変異をもつ場合は短命となることが知られています。本研究からは、カビと人においてDNAポリメラーゼγが寿命にとって重要であることの共通性を見出すことができました。また、今回発見された変異は、これまで人などでは研究されていない部位で生じたものであり、この変異株の解析を進めることはDNAポリメラーゼγとミトコンドリアDNA安定維持機構の更なる理解に繋がると期待されます。

吉原 亮平(ヨシハラ リョウヘイ)|埼玉大学研究者総覧

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