単分子エレクトロニクスに新しい可能性を提示-新しい電気伝導パスの発見-(大学院理工学研究科 斎藤雅一教授)
2024/7/5
発表のポイント
- 一分子を素子として用いる単分子エレクトロニクスは、用いる分子に応じた究極に多様な機能を生み出すことが可能です。
- これまでパイ型軌道に電子が非局在化する分子(パイ非局在電子系分子)が高い電気伝導性を示すことは知られていました(図1(b)および図2(b))。
- 今回、結合がない原子上に広がるシグマ型軌道に電子が非局在化する分子(シグマ非局在電子系分子)が高い電気伝導性を示すことを世界で初めて明らかにしました(図1(a)および図2(a))。
- 本研究により、多様な電子系を用いたフレキシブルな電子デバイスの設計が可能になります。
概要
埼玉大学大学院理工学研究科の斎藤雅一教授と、東京工業大学理学院の藤井慎太郎特任准教授らは、単分子エレクトロニクスに革新をもたらすと期待される新しい電気伝導パスを発見しました。
一分子そのものを素子として用いる単分子エレクトロニクス(註1)は、分子の多様性が無限であることから、究極に多様な機能を生み出すことが可能です。ここでは、どのような分子をどのような機能に結びつけるかが研究の鍵となります。本研究では、注目する機能として、分子内に存在する電子が担う電気伝導を選定しました。
これまで単一分子の電気伝導度の研究は、主にパイ型軌道に電子が非局在化する(註2)分子(パイ非局在電子系分子)が対象でした。今回、結合がない原子上に広がるシグマ型軌道に電子が非局在化する分子(シグマ非局在電子系分子)が高い電気伝導度を示すことを世界で初めて明らかにしました。
今回世界で初めて、シグマ非局在電子系が単分子エレクトロニクスに有用であることを示しました。
本成果は2024年7月3日に「The Journal of the American Chemical Society」にオンラインで公開されました。
論文情報
掲載誌 | The Journal of the American Chemical Society |
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論文名 | Charge Transport through Single-Molecule Junctions with σ-Delocalized Systems |
著者名 | S. Fujii,* S. Seko, T. Tanaka, Y. Yoshihara, S. Furukawa, T. Nishino and M. Saito* *は責任著者 |
DOI | 10.1021/jacs.4c06732 |
URL | https://doi.org/10.1021/jacs.4c06732 |
用語解説
(註1)単分子エレクトロニクス:一分子を用いて電子回路を作製しようとする試みのこと。
(註2)電子が非局在化する:一般的に一つの結合には二つの電子が関与し、その電子は結合原子間に局在化する(じっとしている)。一方、ある特別な電子は結合原子間に留まらずに分子全体に広がることができる。このような状態を「電子が非局在化する」とよぶ。