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植物が”匂い”を感じる瞬間の可視化に成功 -植物間コミュニケーションの解明に向けて大きく前進-(大学院理工学研究科 豊田正嗣教授)

2023/10/18

概要

埼玉大学大学院理工学研究科の荒谷優里大学院生、上村卓矢博士研究員、萩原拓真大学院生、豊田正嗣教授(サントリー生命科学財団?SunRiSE Fellow、米国ウィスコンシン大学マディソン校?Honorary Fellow)らは、山口大学の松井健二教授と共同で、食害を受けた植物が放出する”匂い”を、近隣の植物が感じた瞬間に発生させるカルシウム(Ca2+)シグナル1の可視化に成功し、このシグナルが植物に危険情報を伝え、昆虫に対する防御反応を引き起こしていることを明らかにしました。

本研究グループは、Ca2+のバイオセンサー2遺伝子を組み込んだシロイヌナズナを用いて、植物が「どのような匂い物質を」「どの細胞で」「どのタイミングで」感知しているのかを明らかにしました。シロイヌナズナは、草刈りをした時や昆虫に食べられた時に放出される青臭さの主成分である「緑の香り((Z)-3-ヘキセナールと(E)-2-ヘキセナール)4」を、揮発後「1分程度」で感じ、Ca2+シグナルを発生させます。植物には嗅覚はありませんが、「気孔5」から緑の香りを取り込むことで周囲の状況を感知し、「葉肉細胞」などでCa2+シグナルを発生させることで、昆虫の更なる攻撃に備えて、集団で防御反応を引き起こしていることがわかりました。

本成果は、2023年10月17日午前10時(ロンドン現地時間)に、英国科学雑誌『Nature Communications』に公開されました。

図1. 匂い物質を用いた植物間コミュニケーション
昆虫に攻撃された植物から放出される匂い物質(緑の香りなど)を、近くの植物が感知すると、直接的な被害を受けていないにもかかわらず、将来の自分自身への攻撃に備えて防御反応を引き起こします。

ポイント

植物が匂い物質を使って、別の個体と情報のやりとり(植物間コミュニケーション)をしていることは、古くから報告されていましたが、リアルタイムで可視化した研究はありませんでした。

独自の高感度?広視野蛍光イメージング技術を用いて、傷つけられた植物から放出される緑の香りを感じたシロイヌナズナが発生させるCa2+シグナルを、細胞から個体レベルで可視化しました。

植物には、動物の聴覚や視覚などを用いたコミュニケーション能力はありませんが、気孔から緑の香りを取り込み、Ca2+シグナルが発生させることで、周囲の食害状況を感知し、将来の危険に対して、集団で備えていると考えられます。

研究内容

研究背景

植物は様々な匂いを空気中に放出しています。例えば、草刈りをした時に漂う青臭い匂いの主成分は、緑の香り4と呼ばれ、植物が「傷つけられた?虫にかじられた」という情報を周囲の植物体に伝える「植物間コミュニケーション」に利用されています。この緑の香りを感知した植物は、直接的に傷つけられていないにも関わらず、将来の更なる被害に対して集団での防御反応を引き起こします(図1)。

植物間コミュニケーションに関する報告や記述は、古くから残されていますが、植物が”匂い”を感じる瞬間をリアルタイムで可視化した例は無く、動物の鼻のような特殊な感覚器をもたない植物が「どのような匂い物質を」「どの細胞で」「どのタイミングで」感知しているのかは、長らく不明でした。

研究結果

我々は、蛍光バイオセンサー(GCaMP)2が細胞内のCa2+濃度上昇(Ca2+シグナル)1によって明るく光ることを利用し、GCaMPを発現させたシロイヌナズナを用いて、匂いを感じた植物で発生するCa2+シグナルの可視化を試みました。幼虫の食害によって植物から放出される匂いを、シロイヌナズナに吹きかけると、葉が次々と明るく光り始める(Ca2+シグナルが発生する)ことを明らかにしました(図2)。

図2. 匂い物質を感じた時に発生するシロイヌナズナのCa2+シグナルのリアルタイムイメージング
(左図)幼虫が葉を食べた時に発生する匂いをシロイヌナズナに吹きかける装置。
(右図)食害を受けた植物から放出される匂い(破線矢印)によって起こるCa2+シグナル(黄矢尻, 600, 1200秒)。

どのような匂い物質がシロイヌナズナのCa2+シグナルを引き起こすかを解き明かすために、植物が放出する緑の香りやテルペン類、ジャスモン酸類などを解析しました。その結果、緑の香りに属する青葉アルデヒドである(Z)-3-ヘキセナールと(E)-2-ヘキセナールがCa2+シグナルを発生させることがわかりました(図3)。(Z)-3-ヘキセナールと(E)-2-ヘキセナールは、Ca2+シグナルのみならず電気シグナルを発生させることや、Ca2+シグナルがストレス応答性防御遺伝子の発現6に必要であることも明らかになりました。

図3. (Z)-3-ヘキセナールを感知した時に発生するシロイヌナズナのCa2+シグナル
(Z)-3-ヘキセナール溶液(匂い源; オレンジ色点線)をシロイヌナズナに近づけて、空気中に揮発させた時、その匂いを感知した葉でCa2+シグナルが発生しました(黄矢尻, 120, 370秒)。

匂い物質は、嗅覚をもたない植物のどのような経路を通って取り込まれ、感知されるのかを明らかにするために、Ca2+シグナルを細胞レベルで観察しました。バイオセンサーを、空気の取り込み口である気孔5や葉の表面を覆う表皮細胞、葉の内部を構成する葉肉細胞だけに作らせて、それぞれの細胞のCa2+シグナルを可視化しました(図4)。(Z)-3-ヘキセナールが空気中に拡散し始めて1分程度で気孔(孔辺細胞)でCa2+シグナルが発生し、次に葉肉細胞、そして5分程度経過してから表皮細胞でCa2+シグナルが観察されました(図4)。これらの結果から、シロイヌナズナは緑の香りを気孔から葉の内部へ取り込む可能性が示されました。

図4. (Z)-3-ヘキセナールによって引き起こされるCa2+シグナルの細胞レベルでの解析
(Z)-3-ヘキセナールが揮発し始めて、気孔(孔辺細胞)で最も早くCa2+シグナルが発生し(黄矢尻, 70秒)、次に葉肉細胞で(黄矢尻, 80秒)、最後に表皮細胞でCa2+シグナル(黄矢尻, 300秒)が観察されました(赤枠)。


気孔が緑の香りを取り込む主要な経路であることを確認するために、薬理学的?遺伝学的な解析を行いました。気孔を閉鎖させる作用があるアブシジン酸7をシロイヌナズナに投与したところ、Ca2+シグナルの発生が著しく遅くなることがわかりました(図5, 赤枠)。一方で、アブシジン酸を投与しても気孔が閉じないslac1変異体、ost1変異体8を調べたところ、Ca2+シグナル発生の遅れは観察されませんでした(図5, 赤枠)。シロイヌナズナの葉が緑の香りを感知し、Ca2+シグナルを発生させるためには、気孔が正常に開いていることが重要であることが示されました。

図5. アブシジン処理を行った葉における(Z)-3-ヘキセナールによって引き起こされるCa2+シグナル
気孔を閉じることができない変異体(slac1変異体とost1変異体)では、アブシジン酸処理を行っても(Z)-3-ヘキセナールによって発生するCa2+シグナルの遅れは観察されませんでした(赤枠, 黄矢尻, 200, 400秒)。

これらの結果から、以下のような植物の匂い感知モデルを提唱しました。昆虫に食べられた時に植物から放出される(Z)-3-ヘキセナールや(E)-2-ヘキセナールのような緑の香りは、近くの植物の気孔から葉の内部に取り込まれ、葉肉細胞などでCa2+シグナルを発生させることで、昆虫に対する抵抗性を上昇させると考えられます(図6)。

図6. シロイヌナズナにおける緑の香り感知Ca2+シグナル伝達モデル
緑の香り(黄色丸)が、シロイヌナズナの葉の内部に取り込まれ(赤矢印)、それぞれの細胞でCa2+シグナルを発生させる。

用語解説

1. 細胞内カルシウムイオン(Ca2+)およびCa2+シグナル
細胞内で遊離しているCa2+のことで、筋肉の収縮や神経伝達など、様々な生理学的役割を果たしています。一般的に、細胞内のCa2+濃度は細胞外に比べて10000倍程度低く保たれており、細胞内のCa2+の濃度変化が、次の生体反応を引き起こす信号(シグナル)として働いています。

2. バイオセンサー(GCaMP)
緑色蛍光タンパク質(GFP)に、Ca2+を結合するドメイン(領域)を融合したタンパク質 (Nakai et al., Nature Biotechnology 2001; Tian et al., Nature Methods 2009)。Ca2+を結合すると明るく緑色に光ります(下図)。

細胞内のCa2+が結合するとGCaMPが緑色の蛍光を発します。

3. シロイヌナズナ
キャベツなどと同じアブラナ科の植物。サイズが小さく、成長して種が取れるまでの期間が6週間と短く、ゲノム配列が解析されていることから植物の研究において広く使われています。

4. 緑の香り
草刈りをした時や昆虫に食べられた時に発生する青臭い匂いの主成分。炭素数6のアルデヒド、アルコール、アセテートからなる揮発性化合物の総称で、(Z)-3-ヘキセナールや(E)-2-ヘキセナールが含まれます。

5. 気孔
葉の表面にある小さな隙間のことで、植物はこの隙間を介して、呼吸や光合成に必要な酸素や二酸化炭素などの気体を出し入れすることができます。気孔は二つの孔辺細胞によって構成されており、温度や乾燥などの環境の変化に応じて開閉します。

6. ストレス応答性防御遺伝子発現
植物は外部のストレスに抵抗するために様々なタンパク質を合成します。ストレスを受けた植物は、抵抗性タンパク質を合成するために、その鋳型となるmRNAを遺伝子から合成します。遺伝子発現とは、この一連の反応を指します。

7. アブシジン酸
微量で植物の生命活動に影響を与える植物ホルモンの一つです。気孔を閉じる作用のほかに種子の休眠の維持、乾燥?低温ストレス応答作用などが知られています。

8. slac1変異体とost1変異体
これらの変異体植物では、孔辺細胞において気孔の閉鎖を制御する陰イオンチャネル(SLAC1)と、その活性化を担うリン酸化酵素(OST1)が機能不全となっており、アブシジン酸処理を行っても気孔を閉鎖することができません。

論文情報

掲載誌 Nature Communications
論文名 Green leaf volatile sensory calcium transduction in Arabidopsis(シロイヌナズナの緑の香り感受性カルシウムシグナル伝達)
著者名 Yuri Aratani, Takuya Uemura, Takuma Hagihara, Kenji Matsui, Masatsugu Toyota
DOI 10.1038/s41467-023-41589-9

研究支援

科学研究費補助金 特別研究員奨励費、新学術領域研究(研究領域提案型)
科学技術振興機構 A-STEP
白石科学振興会 研究助成

参考URL

埼玉大学細胞情報研究室(豊田研究室)ウェブページこのリンクは別ウィンドウで開きます

豊田 正嗣(とよた まさつぐ)|埼玉大学研究者総覧このリンクは別ウィンドウで開きます

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