合成した膜タンパク質に対する薬物副作用を測るバイオチップ~個別化医療を指向した薬物の選別が加速~(理工学研究科 戸澤譲 教授共同研究)
2017/12/25
ポイント
? 半導体微細加工技術の活用により、耐久性に優れた人工細胞膜を開発し、ヒトの膜タンパク質hERGチャネルに対する薬物副作用を記録しました。
? このhERGチャネルは、細胞を用いずに合成した無細胞合成タンパク質であり、無細胞合成hERGチャネルの薬物感受性の記録に世界で初めて成功しました。
? hERGチャネルは、その遺伝子型と薬物副作用との関連性が示唆されており、今後は個別化医療を指向して薬物を選別していく研究が加速すると期待されます。
概要
東北大学電気通信研究所(兼材料科学高等研究所)の平野愛弓教授、同大学電気通信研究所の但木大介助教、東北福祉大学感性福祉研究所の庭野道夫教授、埼玉大学理工学研究科の戸澤譲教授などからなる研究チームは、半導体微細加工技術と、細胞を使わずに膜タンパク質を合成する無細胞合成技術とを融合することにより、ヒトの心筋に存在するhERGチャネルと呼ばれる膜タンパク質の薬物感受性を記録することに成功しました。hERGチャネルは、その遺伝子型と薬物副作用との関連性が示唆される膜タンパク質であり、今後は、個別化医療を指向して薬物を選別していく研究が加速すると期待されます。
本成果は、2017年12月18日に、「サイエンティフィック?リポーツ(Scientific Reports)」のオンライン版に掲載されました。なお、本研究は、JST-CRESTおよび科研費基盤研究(B)の助成を受けて行われたものです。
半導体チップに形成された脂質二分子膜に無細胞合成チャネルが埋め込まれた様子
論文情報
雑誌名:Scientific Reports(サイエンティフィック?リポーツ)
論文タイトル:Mechanically stable solvent-free lipid bilayers in nano- and micro-tapered apertures for reconstitution of cell-free synthesized hERG channels(無細胞合成hERGチャネルの再構成のための、ナノおよびマイクロテーパー付孔中で形成した安定脂質二分子膜)
著者:Daisuke Tadaki, Daichi Yamaura, Shun Araki, Miyu Yoshida, Kohei Arata, Takeshi Ohori, Ken-ichi Ishibashi, Miki Kato, Teng Ma, Ryusuke Miyata, Yuzuru Tozawa, Hideaki Yamamoto, Michio Niwano, and Ayumi Hirano-Iwata(但木大介、山浦大地、荒木駿、吉田美優、荒田航平、大堀健、石橋健一、加藤美生、馬騰、宮田隆典、戸澤譲、山本英明、庭野道夫、平野愛弓)
DOI番号:10.1038/s41598-017-17905-x
詳細な説明
私たちの体を構成する細胞は脂質二分子膜と呼ばれる極めて薄い膜で覆われています。この膜には、種々の膜タンパク質が埋め込まれており、その一種であるイオンチャネルタンパク質は、細胞膜の内側と外側との間にイオンの通り道(チャネル)を形成する機能を持っています。このイオンチャネルタンパク質に適切に作用する薬剤は、薬として使うことができますが、薬剤が予期せずイオンチャネルタンパク質を抑制してしまう場合は重篤な副作用を引き起こしてしまいます。したがって、薬剤による効果と副作用とを効率よく調べるためのスクリーニング系の開発が強く望まれています。
東北大学電気通信研究所/材料科学高等研究所の平野愛弓教授らのグループは、かねてより、創薬スクリーニングのための基盤技術の構築を目指し、脂質二分子膜を人工的に形成し、そこにイオンチャネルタンパク質を埋め込む技術の開発に取り組んできました。しかし、脂質二分子膜は僅かな外力によっても壊れやすく、また、その保持体となる半導体チップの作製も極めて困難でした。さらに、イオンチャネルタンパク質の調製も非常に難しく、新たな手法の登場が望まれていました。今回同グループは、半導体微細加工技術を活用して高精度な保持体作製プロセスを構築し、耐久性に優れた脂質二分子膜の高確率形成を可能にしました。
一方、埼玉大学理工学研究科の戸澤譲教授のグループは、小麦胚芽の抽出液を用いることにより、様々な薬と副作用的に反応することが問題となっている心筋のhERGチャネルタンパク質を、細胞を用いることなく大量に合成することに成功しました。
この2つの研究成果を組み合わせ、平野?戸澤の合同グループは無細胞合成したhERGチャネルタンパク質を上記の安定化脂質二分子膜中に埋め込み、その薬物反応性を1分子レベルで記録することに世界で初めて成功しました。hERGチャネルタンパク質は、その遺伝子型と薬物副作用との関連性も示唆されており、今後は個別化医療を指向した薬物スクリーニングが加速すると期待されます。
本成果は、2017年12月18日に、「サイエンティフィック?リポーツ(Scientific Reports)」のオンライン版に掲載されました。なお、本研究は、JST-CRESTおよび科研費基盤研究(B)の助成を受けて行われたものです。
プレスリリース
合成した膜タンパク質に対する薬物副作用を測るバイオチップ~個別化医療を指向した薬物の選別が加速~
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