「ひとみ(ASTRO-H)」衛星、銀河団も太陽も化学組成は同じだった ~高温ガスが語る超新星爆発の歴史~(理工学研究科 戦略的研究部門 X線?光赤外線宇宙物理領域 共同研究)
2017/11/15
当研究グループは、X線宇宙望遠鏡(X線天文衛星)を用いて、宇宙の活動的な姿をとらえる宇宙物理学の研究を展開しています。ミッション提案時から10年以上にわたり、JAXAやNASA、SRONほかと共同で、X線天文衛星「ASTRO-H(ひとみ)」に搭載した軟X線分光器SXSの開発や、搭載機器の解析ソフトウェアの構築等を行ってきました。今回の発見は、2016年2月に無事に軌道に投入された「ASTRO-H(ひとみ)」衛星の一連の初期観測の成果です。
「ひとみ(ASTRO-H)」衛星 (c) JAXA
成果の概要
銀河の大集団である銀河団は重力的に束縛された宇宙最大の天体です。銀河団は宇宙年齢をかけて進化してきたため、宇宙誕生から現在までに星や超新星爆発で合成された元素の情報を多く持っています。そのため、これまで宇宙でどの元素がどれくらい生成されたかを知るための非常によい「ショーケース」になります。超新星爆発には様々たなタイプがありますが、Ia型超新星爆発は鉄族元素(クロム、マンガン、鉄、ニッケル)の主要な供給源であると考えられ、これら鉄族元素の生成比はIa型超新星の爆発メカニズムを解明するための重要な情報が含まれています。
X線天文衛星「ASTRO-H(ひとみ)」に搭載された軟X線分光装置SXSはこれまで主要のCCD検出器と比べて20倍以上エネルギー決定精度が向上したため、クロムやマンガンといった「レアメタル」からの微弱な放射も精度よく決定できるようになりました。その結果、全天の銀河団の中で最もX線で明るいペルセウス座銀河団の中心部では、鉄族の存在比は太陽に含まれる鉄族の存在比と同じであることがわかりました。言い換えると、太陽は宇宙の平均的な組成をもっていることが今回の観測で確かめられたのです。
また、鉄族元素の存在比からIa型超新星爆発の爆発メカニズムにも新しい制限を与えました。Ia型超新星爆発は太陽の数倍(~6倍)よりも軽い恒星の進化の最終段階である白色矮星が連星系をなした時に伴星からの大量の物質が供給されたり、白色矮星同士が衝突合体して起こることが考えられています。両者で爆発時の白色矮星の重さに差があるため、爆発時に合成される鉄族元素の存在比(レアメタルと鉄の相対量)が異なると予想されています。今回の観測結果(太陽と同じ鉄族元素の存在比)は、Ia 型超新星爆発を起こす白色矮星の質量の多様性、ひいては爆発に至る経路の多様性を示唆しています。
本研究成果は、11月13日付(世界時)英国科学誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。詳細は下記のJAXAからのプレスリリースをご覧下さい。
ASTRO-H(ひとみ)衛星は衛星の不具合により、約1ヶ月という短い期間で運用終了しましたが優れた科学的成果をあげています。現在JAXAは国内外の大学や研究機関と協力してX線天文衛星代替機の計画を進めています。田代教授が、JAXA宇宙科学研究所とのクロスアポイントメント(混合給与)制度の活用により、両機関に籍を置きつつ、科学責任者を担当するなど、当研究室も深く代替機計画に関わっており、精密X線分光観測により宇宙での元素生成、拡散史の解明を目指しています。
本学大学院理工学研究科とJAXA宇宙科学研究所は今年6月16日、連携協力に関する協定を締結しました。この協定は、衛星や探査機を使って収集した天文観測データをより多くの研究者が活用できるよう、データの標準化や解析ソフトウェアの開発、及び人材育成を行うことが目的で、今後更なる連携が期待されます。
【参考リンク】
「ひとみ(ASTRO-H)」衛星、ペルセウス銀河団に「静謐な」高温ガスを発見|ニュース