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研究?産学官連携

都市の価値としての"ウォーカブル"と「らしさ」

~ひと中心の持続可能なまちづくり実現のために~

Frontiers of SU Research

NEXT GENERATION人文社会科学研究科内田 奈芳美

少子高齢化などを背景に地域社会の活力低下が顕著になっている現在、この課題を解決するための取り組みの1つとして、国土交通省が推進するのが"ウォーカブル"なまちづくりだ。本学人文社会科学研究科の内田奈芳美教授は、持続可能性を高める上でも大きなメリットがあるウォーカブルなまちづくりの理論?事例研究や実験を行ってきた。実際のまちづくりプロジェクトにも参画し、数々の実績をあげてきた内田教授に研究の意義や内容を語っていただいた。

持続可能なまちづくりに必要不可欠な"ウォーカブル"という視点

 都市の中に、ひとが歩きたくなるような居心地のよい空間をつくり、クルマを中心としたまちづくりからの脱却を果たそうとする"ウォーカブル"という考え方が注目されている。
"ウォーカブル"な都市を実現するには、徒歩や自転車、公共交通機関などを使って、至るところにアクセスできるようにインフラを整えたり、街路や公園、広場などのデザインを見直し、賑わいを創出したりするが、その効果は多岐に渡る。
 例えば、クルマの使用が抑制されるので、自然環境への負荷を減らすことができる。また、クルマを中心とした社会では移動が制約されがちな高齢者に優しい社会を構築することにもつながるため、今後加速する高齢化への備えとしても意義は大きい。
 さらに"居心地よく、歩きたくなる"空間をつくるには、都市の魅力を磨く必要がある。現在、少子高齢化などを背景に地方都市の活力低下が問題になっているが、"ウォーカブル"なまちづくりにより地域の魅力が高まれば、活気を取り戻すことになるだろう。ひいては観光需要を喚起することも期待できる。
 つまり、"ウォーカブル"なまちづくりの実現は、環境、社会、経済といった様々な領域で都市が直面する問題の解決に直結する。つまり、"ウォーカブル"な都市の実現は、持続可能性を考えると、多くの都市が取り組まざるを得ない喫緊の課題だといえるのだ。

"ウォーカブル"先進国、米国の取り組みから見えること

歩きたくなる"ウォーカブル"な地域は、そこに住む人や過ごす人が、居心地よく、楽しいと思えるものでなければならない。ここで重要になるのが、その都市の「地域らしさ」が人々の間に浸透していることである。
 しかし、「地域らしさ」を把握し、共有するのは簡単なことではない。なぜなら「地域らしさ」や「楽しさ」、さらには「歩きやすさ」は定性的な側面が大きいため、共通認識として捉えることが困難だからである。
 私は、主に「"ウォーカブル"なまちづくり」と、「都市(地域)らしさ」に関する研究に取り組んでいる。繰り返しになるが、まちづくりには、まずその都市としての「らしさ」の追求が重要である。この前提のもとで、都市の「らしさ」を適切に評価するフレームワークの構築などに研究として取り組んでいるのだ。
 なお、"ウォーカブル"なまちづくりに関しては米国での取り組み事例を研究しているが、都市らしさやまちづくりのカタチは、ケースによって異なるため、ベストプラクティスを踏襲すれば、プロジェクトがうまく進むわけではない。しかし、研究を進めることで、健康、環境、経済、雇用などへの投資効果をはかるためのフレームワークなどを構築するための知見を得ることが可能だ。数字だけが重要なわけではないが、その成果をまちづくりにうまくつなげられればと考えている。

大宮駅周辺、金沢市など――実践的な取り組みも

都市の「らしさ」「楽しさ」「歩きやすさ」といった目に見えにくいものをいかに可視化するか? これを実現するためのフレームワークの構築を試みながら、実践的な取り組みにも携わっている。
 埼玉県さいたま市に位置するターミナル「大宮駅」周辺のまちづくりを推進する「アーバンデザインセンター大宮」に参画しているのもその1つ。この組織は、市民、行政、企業、教育?研究機関などが連携し、地域に関わる人々が新たなまちづくりを考えるための各種マネジメントを行うものだが、副センター長として"ウォーカブル"なまちづくりを実現するための取り組みに勤しんでいる。
 その他、石川県金沢市で、市民主導のまちづくりを行うNPO法人「趣都金澤」では、理事としてまちづくり活動に携わっている。
 一般的に、まちづくりというと、工学的なアプローチで空間をデザインすることが脚光を浴びがちだが、実際のまちづくりには、都市の「らしさ」を明らかにするために住民の思いを把握したり、ステークホルダー間の合意形成をはかったりと、建築の視点だけでは解決しきれない領域があるのが現実だ。だからこそ、経済学や社会学などのアプローチを用いた、学際的な研究が重要である。
「アーバンデザインセンター大宮」などの取り組みで培った、行政が住民と一緒にあるべきまちの姿を共有していくプロセスは、まちづくりを進める他の自治体の力にもなれるものだと考えている。

本研究との産学官連携にご関心のある方は、こちらのフォームへお問合せください。
内田奈芳美(ウチダ ナオミ)研究者総覧
"ウォーカブル先進国"アメリカの現状と課題 -ポートランド、シアトル、そしてニューヨークに見る(エネルギー?文化研究所 情報誌CEL vol.134)(外部サイト)

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