地盤陥没を引き起こす地盤の「内部侵食」に関する研究
建設工学科 A?S
地盤陥没を引き起こす地盤の「内部侵食」に関する研究
建設工学科 A?S
Fig.1 宮崎県都城市での陥没調査(2016年12月) |
Fig.1は2016年に宮崎県都城市で発生した地盤陥没の調査を行った時の様子です.この陥没穴の大きさは,縦約30m,横約10m,深さ約7mで,2016年9月に台風16号が通過した後に発見されました.台風による大雨の影響で,地盤内部の土が流れ出したことによって陥没が発生したと考えられています.幸いこの陥没事故での死傷者はいませんでしたが,過去には陥没に人が巻き込まれる事故も発生しています.このような地盤陥没を引き起こす要因の一つに,地盤の「内部侵食」が関係していると考えられています.
Fig.2 内部侵食による地盤陥没が発生するまでのプロセス |
Fig.2は地下に埋設されている下水道管などの管路の破損部が原因となり,内部侵食が発生し,地盤陥没に至るまでを簡単に示した図です.Fig.2内の番号に沿って,地盤陥没発生に至るまでを説明します.
(1) 通常,下水道管内は満水ではありません.管路は経年劣化(建設から何年も経つことで進行する老朽化のこと)などにより部分的に破損が生じている場合があります. |
(2) 豪雨などにより管路内が満水となると,管路内を流れる水が管路の破損部から地盤内に漏れ出します. |
(3) 雨が止み管路内の水位が下がると,地盤内へ流れ出した水が周囲の細かい砂を巻き込んで管路内へ戻ってきます. |
(4)~(6) (2)?(3)が繰り返されることで,徐々に侵食部分が地上面へ向かい拡大します.細かい砂が管路内へ引き込まれることで,地盤の強度は低下します. |
(7) やがて侵食部分が地表近くへ達すると,地盤陥没が発生します. |
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Fig.3 土の構成 |
内部侵食の説明の前に,簡単に土について説明します.Fig.3は地盤内部のある一部分を示しています.皆さんは普段あまり意識することはないと思いますが,土はFig.3のように,様々な大きさの土の粒が集まって構成されています.そして,地盤内部の水は土の粒と粒の隙間を通って流れていきます.
地盤内部では,小さな土の粒が地下水の流れに乗って大きな土の粒の間を流れ,地盤の外に押し流されることがあります.これにより地盤内部が侵食される現象を地盤の「内部侵食」と言います.小さな土の粒が抜け出すことで,地盤内部の構造が不安定となり,最終的にはFig.1に示したような地盤陥没が発生する恐れがあると考えられています.そこで私は,「地下水が地盤の内部侵食発生へ与える影響」を調べることを目的として研究を行っています.
Fig.4 実験装置 |
Fig.4のような実験装置を用いて,「透水試験」と呼ばれる実験を行いました.細かい砂と粗い砂を混ぜ合わせた実験試料を用いて実際の地盤を模擬した模型地盤をつくりました.Fig.4の黄色で示した高さ15cmの部分が模型地盤です.この模型地盤に水を流し続け,どのような条件であれば細かい砂が流出しやすいのか,つまり内部侵食が発生しやすいのかを実験によって評価しました.模型地盤に対して水を流す方向を今回の実験条件とし,(1)模型地盤の上から下方向へと水を流す試験(以下「下向き透水試験」と呼ぶ),(2)模型地盤の下から上方向へと水を流す試験(以下「上向き透水試験」と呼ぶ)の2パターンを設定しました.
Fig.5 細かい砂の流出率[%] |
Fig.6 下向き透水試験の考察 |
Fig.7 上向き透水試験の考察 |
実験を行う前は,重力と水の流れの向きが同じ「下向き透水試験」の方が,細かい砂が多く流出すると予想していました.しかし,Fig.5に示す結果から,「上向き透水試験」の方が多くの細かい砂が流出したことがわかります.これは,「下向き透水試験」では重力と水の流れの向きが同じであるため,Fig.6に示すように砂の粒同士がしっかりとかみ合い,模型地盤内に隙間が小さく,安定した砂の粒の骨格構造が作られたため,予想に反して細かい砂の流出があまり見られなかったものと考えられます.一方,「上向き透水試験」では重力と水の流れの向きが反対であるため,Fig.7に示すように水の流れが重力の作用を低減させ,隙間の大きな緩い骨格構造が保たれるとともに,砂の粒も動きやすくなったことから,細かい砂の流出が多く見られたものと考えます.これらの結果から,Fig.2の地盤陥没が発生するまでのプロセスに戻ると,雨が止み地下水位が低下する場合よりも,豪雨などにより地下水位が上昇する場合の方が,細かい砂の流出量が多くなるのではないかと考えられます.
研究は,まず「どのような結果が得られるのか」という予想を立ててから始めますが,予想外の結果が得られることも多くあります.「どうしてこのような結果が得られたのだろう」と考えることが研究の面白さであり,自身の研究によって社会に安全や豊かさを提供できることが工学の面白さであると感じています.研究室の同年代の仲間と共に,試行錯誤を繰り返しながら研究を進めていくことや,時に現場に出て自らの手で調査を行うことは,大学の研究ならではの特徴であり,自身の糧になる経験であると感じています.「研究」と聞くと難しそうに感じる方も多いと思いますが,研究に関する知識以外にも様々なことを得ることができます.みなさんの大学生活が実りある時間となることを願っています.
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